藤井太洋著 「ハロー・ワールド」 感想・レビュー・おすすめ
藤井太洋 著の小説「ハロー・ワールド」の感想・レビューです。
以下のKindle版を購入して読みましたが、
【Amazon.co.jp限定】ハロー・ワールド(特典: オリジナルショートストーリー データ配信)
- 作者: 藤井太洋
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2018/10/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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端的に言うと面白かったです!
以下、もう少しだけ詳しく紹介します。
ネタばれはしてないつもりですが、おおまかなストーリーは含んでいますのでご注意下さい。
「ハロー・ワールド」とは
Amazonの商品紹介引用させていただきます。
未来が体験できる静かで熱い革命小説、誕生。「藤井太洋は諦めない、テクノロジーも、そして未来も」――宮内悠介。「何でも屋」エンジニアの文椎の武器は、ささやかなITテックと仲間と正義感。仲間と開発した、広告ブロッカーアプリ〈ブランケン〉が、突然インドネシア方面で爆発的に売れ出した。東南アジアの島国で何が起こっているのか――。とんでもない情報を掴んでしまった文椎は、第二のエドワード・スノーデンなるか? ※2019年2月18日(月)までの期間限定配信となります。
とのことですが、紹介しているのは本書の1編。「ハロー・ワールド」の紹介をされています。
本書は5作の連作短編となっています。
本書構成
- ハロー・ワールド
- 行き先は特異点
- 五色革命
- 巨象の肩に乗って
- めぐみの雨が降る
そしてAmazon(だけ?)には特典として、
特別番外編「ロストバゲージ」が付属します。
先にこの特典についてですが、
Kindle版:2019年2月18日までに配信されたものに付属。本書の5作の後に画像ページとして付属します。
紙媒体:2019年2月18日までPDFファイルをダウンロード可能。(おそらくKindle版に含まれる画像ファイルだけ切り出したものだと思います)
私はKindle版を購入しておりKindle版だけは確認しておりますが、ページにして4ページの短いお話でした。
藤井太洋 氏 について
デビュー作は「Gene Mapper」という長編SF小説です。
「Gene Mapper」は著者が一個人で電子書籍として売って、ヒットしたということで当時話題になりました。
Amazonでは電子書籍を個人で掲載して売ることができる仕組みがあったりします。
本作が、Amazon.co.jpの「2012年Kindle本・年間ランキング小説・文芸部門」で1位を獲得するという偉業を成し遂げてます。
そして著者の驚きの経歴なのですが、なんとソフトウェア会社に勤められていたエンジニア出身の方だったんですね。デビュー作「Gene Mapper」はエンジニアの業務の傍ら書いていたそうです。
その後、長編として他に有名になったのが、「オービタル・クラウド」。
この長編は、第35回日本SF大賞、第46回星雲賞(日本部門)を受賞しています。
「SFが読みたい!2015年版」 ベストSF2014 [国内編] 第1位にも選ばれました。
こちらも面白いです。
文庫版は上下巻に分かれているのでご注意ください。
前に記事も書きましたのでよければそちらも
「ハロー・ワールド」感想
それでは本題の感想ですが、あまりネタばれはしたく無いのでざっくり話のさわり部分や舞台あたりだけに触れようと思います。
まず最初に。
主人公は30代後半の文椎泰洋(ふづいやすいひろ)。
彼はベンチャー企業「エッジ」に勤め、プログラマー等コンピュータに関わる仕事をしています。
5作の連作短編の全て彼が主人公で物語が進みます。
時系列も順番通りとなっており関係がある話もありますが、基本的な題材はそれぞれで異なっているといった感じです。
もちろんフィクション(一部はもちろん本当のことも含まれているのでしょう)ですが実在の企業名、アプリ名が多く出てくるのが面白いです。
それでは各短編についてです。
1. ハロー・ワールド
エッジに勤めている主人公ですが、別会社に出向しています。そんななか仕事とは別に彼はアド(広告)ブロックアプリを開発し、たまたま知り合った二人と販売することになります。
性能面で特に優れているわけでは無いアドブロックアプリですがなぜか売れ出します。
しかし特定の国だけから。
なぜその国からだけ売れだしたのか、国の陰謀が絡み合い、主人公の決意が垣間見える序章にふさわしいお話でした。
舞台は日本。時期は本作では語られませんが後述の「巨象の肩に乗って」で2017年の春よりも前だと言うことが記載されていましたので、現代よりも少し前の話だと思われます。
2. 行き先は特異点
舞台はアメリカ カリフォルニア州。2019年4月のお話です。
そう超がつくほどの直近未来ですね。
主人公はドローンの販売に向けたプロモーションのためにサンフランシスコからラスベガスまでレンタカーで移動中に車に後ろから追突。事故に遭います。
低速であったため怪我はありませんでしたが、追突してきた車が意外な車で。。
そして警察もなかなかこず。車に搭載していたドローンを使って事故現場の写真を撮ろうとするもなぜか不思議な現象が起きたり、他にもおかしな現象が起きます。
なぜその様な現象が起きたのか!?そもそもなぜ事故にあったのか!?
といったお話。
3. 五色革命
舞台はタイのバンコク。2019年5月15日。
出張でバンコクに訪れていた主人公は、帰国前にデモにあってしまいホテルから出られない状態になってしまいます。
もちろんデモは予定を確認しておりそれよりも前に帰る予定でしたが、デモは予定よりも早く起きます。
本作も面白かったですが、個人的には結末だけがいまいちでした。
もうちょっとビシッと決まる終わり方が良かったですがリアリティがあってこれもありかもしれませんが。
4. 巨象の肩に乗って
舞台は日本。2020年3月15日。
Twitterと中国がメインのお話。
ピンとくる方もいらっしゃるかもしれませんが、中国ではTwitterなどのSNSが検閲のため使えなかったりします。そんな情勢の中のお話。
そして本作は主人公の分岐点となるお話となっています。
検閲に対してどう動くのか。人との関わり技術の融合。インターネットのあるべき姿。
そんなキーワードが出てくる様なお話でした。
とても痛快で面白かったです。
5. めぐみの雨が降る
本書の書き下ろしです。
舞台はマレーシア クアラルンプール。時期は不明ですが、2020年3月15日よりは後の話。
仮想通貨のコンソーシアムに参加していた主人公ですが、コンソーシアムのスポンサーとなっていた一人の中国人と食事をすることになります。
そこから話が動いていきます。
端的に言うと仮想通貨のお話です。
そもそもなぜそんコンソーシアムに参加していたというと「巨象の肩に乗って」を読まないとわからないのであまり書けませんが、主人公は事件に巻き込まれます。
そして結末はこれまた痛快で面白かったです。
仮想通貨のお話は過去作品に「アンダーグラウンド・マーケット」がありますが、本作はまた違った切り口の作品となっていました。
特別番外編 ロストバゲージ
本書の期間限定の特典です。
4ページの短いお話ですが「めぐみの雨が降る」よりも後のお話。
後日談としても楽しめると思いますので期間内に手に入れることをお勧めしておきます!
話の内容はというと5作と比べると大きな事件が起きるわけでは無いのですが、
舞台は中国です。
ベトナム ホーチミンから飛行機で中国にやってきた主人公。なぜやってきたは伏せておきます。
そしてそこでバゲージ(意味は手荷物)がロストするわけですね。
そんなお話。
全体を通しての感想
やはり面白かったです。
ITの知識をベースにお話が組まれていましたが、私もSEとして働いている身なのでとても楽しめました。
そして舞台は現代から数年先の未来までといった超近未来とも言うべきお話になっていますので、読むのであれば早い方が良いのかもしれません。
こういった現実世界がベースのお話は現実が追い越してしまうと小説の中の未来と少しずれてしまったりすることもあるので、読み手によってはリアリティが欠けると感じる方もいるかもしれません。そういう側面があるので興味がある方は早めに読むのが良いかもしれません。特典が期間限定でつくのはそういうことなのかも?しれません。
全体を通して主人公がかなり有能すぎるので、本当にそれが可能なのかの判断が私にはできなかったのですが、本書を読む限りでは「できるんだろうな」と思わせる書き方でありましたのでフィクションは気にならなかったです。
また、最初短編集だと思って読んでいましたが全て同じ主人公で時系列も作品順だったのでそれもまた良かったです。
短編を読んでいるというよりは、1話、2話、、、続いている感じですのでとても読みやすかったです。
最後に、本作とは関係無いのですが、2020年あたりまでが舞台の作品が多い藤井太洋氏でしが、個人的には数十年後、百年後といった未来が舞台のITプラスSFの長編小説が読みたいですね。
何かで長編書いていると言われていましたが本作だったのかもしれません。
ともあれ本作とてもお勧めですので未読の方はぜひ♪
ではまた!
【Amazon.co.jp限定】ハロー・ワールド(特典: オリジナルショートストーリー データ配信)
- 作者: 藤井太洋
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2018/10/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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